一般講演1

メタンフェタミン逆耐性現象に対するドーパミン受容体アゴニスト反復投与の効果

首藤隆秀, 黒岩真帆美, 濱村みつ子, 島添隆雄, 渡辺繁紀, 山本経之

九州大学大学院薬学研究院医療薬科学専攻薬効解析学分野

【目的】
 覚醒剤のメタンフェタミン (MAP) は、ヒトが長期間連用すると単回使用時に得られる快感や陶酔感などの作用には耐性が生じるが、一方で、幻覚・妄想などの統合失調症に酷似した精神症状(覚醒剤精神病)が出現するようになる。覚醒剤精神病や、代表的な精神疾患の一つである統合失調症は、治療で一旦寛解した後も再発準備性が持続する遷延性の疾患である。現在、多くの統合失調症治療薬があるものの、服用を中止すると一旦臨床症状が消失した患者の約 75% が 2 年以内に再発してしまい、未だ根本的な治療法は確立されていないのが現状である。一方、動物に MAP やコカインを反復投与すると、これらの薬物の自発運動量増加作用や常同行動誘発作用が増強される。この現象は逆耐性現象と呼ばれており、一旦成立すると長期の断薬後でも持続する特徴を持つ。MAP 逆耐性現象は、再燃しやすさの持続?再燃準備性?という観点から、覚醒剤精神病や統合失調症の病態の一面を示す、脳神経可塑的変化の動物モデルと考えられている。これまでの逆耐性に関する報告は、成立する過程のメカニズムの解明が主であり、一旦形成された逆耐性を軽減または消失させることを試みた研究はほとんどなされていない。しかし、逆耐性が獲得された状態、すなわち再燃準備性が持続している状態を精神疾患に罹患している状態とみなすと、これを寛解する方法を研究することは治療法開発の観点から極めて重要と考えられる。そこで本研究では、覚醒剤精神病および統合失調症の再燃に焦点を当て、新たな治療法を確立する目的で、一旦成立した MAP 逆耐性現象を薬物処置により持続的に消失させることを試みた。
【方法】
 Wistar 系雄性ラットに生理食塩水および MAP (1.0 mg/kg) を3 日に 1 度、計 5 回反復投与し、7 日間の休薬後、MAP (0.5 mg/kg) を投与し、自発運動量を測定した。MAP 反復投与群には引き続き選択的ドーパミン (DA) D1 受容体アゴニストR-(+)-SKF-38393 (1.0, 3.0 mg/kg)または生理食塩水を 7 日間反復投与し、最終投与日から 3 日後および 14 日後に、再び MAP (0.5 mg/kg) を投与して自発運動量を測定した。また、最終投与日から14 日後にMAP (0.5 mg/kg) 再投与後の線条体 DA 遊離量をマイクロダイアリシス法により測定した。
【結果】 
 MAP 反復投与群では、自発運動量ならびに線条体 DA 遊離量を指標とした逆耐性現象
が獲得され、少なくとも 28 日間は持続することが確認された。逆耐性獲得後、R-(+)-SKF-38393 3.0 mg/kg の反復投与により、逆耐性現象が消失した。この効果は一過性ではなく、少なくとも 14 日間は持続することが明らかとなった。
【考察】
 逆耐性を獲得したラットは、中枢 DA 神経系における D1 受容体を介した情報伝達系が亢進していることが報告されている。R-(+)-SKF-38393 反復投与による逆耐性の消失は、D1 受容体のさらなる反復刺激により、DA 神経投射部での情報伝達系が変化したことに基づくと考えられる。さらに線条体 DA 遊離量も変化していたことから、DA神経起始部の情報伝達に対しても影響をおよぼしていると考えられる。