1999年4月8日
カエルのイスミ―視蓋投射の電流源密度解析
星野 徳明
九州工業大学

カエルのイスミ核(NI)は、両眼視や餌/敵の認識に関わっていることが報告されている。カエルの視覚中枢である視蓋は同側の NI に投射しており、同側および対側の NI から投射を受けている。本研究では、 NI と視蓋の相互結合を、電流源密度(CSD)解析法によって明らかにする。NI を電気的に刺激しながら、視蓋表層から 20 maicro m 毎に 800 micro m までの深さで、それぞれ電場電位を記録した。得られた電場電位に1次元のCSD解析を行い、CSD デプスプロファイルを作成し、イスミ-視蓋投射の時空間パターンを調べた。まず第1の sink(潜時:5 ms; 持続時間:5 ms)は、視蓋表面から320 - 340micro m の深さに局在していた、これは第8層及びG層に相当する。次に第2のsink (潜時:18 ms;持続時間:35 ms)は深さ 340 - 440 micro m に局在していた。それぞれの sink について、その上方と下方に対応した source が確認できた。各 sink の潜時および出現位置を考慮すると、第一の sink はmonosynaptic 入力で、第二の sink は polysynaptic 入力であると思われる。また、第一の sink は、網膜神経節細胞の R3/R4(オン・オフ/オフ 線維に相当)からの視蓋への入力部位と一致しており、NI からの入力と網膜からの直接入力間における、視蓋内での相互作用の存在を示唆している。

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1999年4月15日

八木 哲也
九州工業大学

最近、神経活動をシミュレーションするためのソフトウエアツールが発達して来ました。シミュレーション解析では、電気生理学,形態学的データに基づいて,仮想神経細胞を計算機上に再構築し,入出力特性をいろいろな角度から解析します。シミュレーションの利点は、仮想神経細胞に含まれる形態学,生理学パラメータをさまざまに変更しながら細胞の入出力を"可視化"することができることです。神経科学が本質的に実験科学であることを考慮すれば、シミュレーション解析によって、"何々を実証する"というはあり得ませんが、神経の機能と形態、生理パラメータの関係を洞察したり、洞察に基づいく実験を組むためのヒントを与える等、有効な手段ではないかと考えています。今回は最近私の研究室で行なったシミュレータNEURONを用いた計算結果を参考にしながら、シミュレーション解析の有効性(危険性)について参加者の皆さんと議論して見たいと思います。

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1999年4月22日
Inhibitory long-term potentiation underlies auditory conditioning of goldfishh escape behaviour
Y. Oda et al., Nature, Vol. 394, No. 6689,pp.182-185,1998

安井 湘三
九州工業大学

日本発の重要な成果と思われます。たまたま、この論文の推薦書を書く立場となっているのでこれを選びました。私の準備、勉強不足のために細部についてはまだ私には理解できない箇所が多々ありますが、松本先生は著者の小田先生の元同僚・友人ですのでこの仕事を良くご存知OBと思います。紹介に際してのアシストのほど宜しくお願いします。

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1999年5月20日
逆問題(inverse problem)解決のための遺伝的アルゴリズムを用いた多次元非線形数値最適化手法の開発
岡本 正宏
九州工業大学

システム要素間の相互作用が詳細に知られていない非線形システムの数理モデルを構築するためには、実験によりそのシステムの動的挙動を観測し、それを再現するような数理モデルを試行錯誤で決定していくしかなかった。しかし、数理モデルの表現形式が決まっていれば、これは、実験で観測されるシステムの動的挙動を最もよく再現する内部パラメータの最適化問題ととらえることができる。近年、こういった最適化問題で遺伝的アルゴリズムが注目されており、組合せ最適化のみならず、数値最適化でも成果をあげつつある。システムの動的解析を行なう時、多くの場合において一般質量作用則(Generalized Mass Action, GMA)に基づく微分方程式表記法が用いられるが、反応物質の生成過程や分解過程の反応メカニズムが不明な場合は、この表記法では記述できない。観測されるシステム要素の動的挙動(タイムコース)から、システム要素間の相互作用を推定することは、一種の逆問題であり、このような問題に対しては、GMA表記は不適当である。我々はこのような逆問題を解く上で、非線形システムの数理モデルとしてGMAの生成過程および分解過程をそれぞれ1本のパスにまとめて近似するSーsystem表記法を、多次元数値最適化手法に遺伝的アルゴリズムをベースとする手法を導入し、試験的な問題への適用を行なった。その結果、開発した最適化手法は、探索効率が非常に高く、逆問題に対して優れた手法であることが明らかになった。本セミナーでは、そのアルゴリズムと、適用結果について概説する。

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1999年5月27日

李 麗明
九州工業大学

In today's seminar, I would like to introduce some results from my recent experiments, and wish to get some discussions on them. The topic I will talk about is the effect of different stimulation parameters on the electrically evoked response from frog's retina. Spike can be recorded when transretinal biphasic current was applied to the retina, and influenced by some different stimulation parameters such as the phase of pulse, the inter-phase interval, and current amplitude. Ihe results shows two types of elicited spikes with either almost fixed delay or scatter delay every repetition.

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1999年6月10日

中川 秀樹
九州工業大学

現在、脳内情報表現という事に関心を持って研究を進めています。これまで、電流源密度(CSD)解析法を用いて視神経の電気刺激や散光のオン、オフ刺激に対して、脳内で、いつ、どこに神経の活動が出現するのかを明らかにしてきました。この研究の続きとしては、どうしても、行動発現上、より意味のある視覚パターンはどの様に脳内で表現されているのかを知りたくなります。そこで、私は、前回のセミナーでハトとバッタを例に紹介したルーミングに対する逃避行動の発現に注目しました。物体が目前に迫って来るまさにその時、カエルの脳内では何が起こっているのでしょうか?
この研究に取り組む前にまず明らかにしておかねばならない事があります。それは、ルーミング刺激の持つパラメータと発現する行動の関係をはっきりさせる事です。そこで、今回は、昨年の2人の4年生と一緒に行った行動実験の結果と、イメージプロセッサを用いて逃避行動を定量化するために開発したシステムについて紹介したいと思います。研究職を志した当初から大変に関心のあった行動実験ですが、その難しさを改めて実感しております。話の内容は実に単純です。気楽に聞いて色々と助言を頂ければ幸いです。皆さん、よろしくお願いします。

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1999年6月17日

中川 裕之
九州工業大学

細胞膜骨格はストレスファイバーや微小管などのいわゆる細胞骨格ほど有名ではありませんが、受容体や細胞接着分子の細胞表面における分布の制御など重要な生理的機能を果たしていることが分かってきています。しかし光学顕微鏡ではその形態の観察が容易ではないため、機能に比べ構造の解析は進んでいません。そこで私は膜骨格の構造を電子顕微鏡で簡単に観察する方法を考案し、哺乳類培養細胞を用いて観察を行ってきました。これまでに、用いた4種の細胞すべてでほぼ同様な膜骨格構造が観察できました。また、特徴的な構造をもつ細胞も存在しました。まだ予備的な段階で結論のようなものは出せないのですが、発表では観察された主な構造の写真をご覧頂く予定です。

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1999年6月24日
1-ブロモプロパン暴露後の神経細胞の応答変化
笛田 由紀子
産業医科大学

今回のセミナーは、産業保健の分野でホットtopicである、産業環境化学物質の生体影響の話です。環境化学物質と言えば次世代への影響が懸念される外因性内分泌攪乱物質を思い起こされるでしょう。話題の1、2-ブロモプロパンは、内分泌攪乱物質とはまだ分類されていないけれど、生殖器毒性が病理学的に確認されています。今回はあくまでも、産業現場・労働現場における人工化学物質の生体影響とくに中枢神経系への影響ということで実験データをお示ししたいと思います。 フロンガスがオゾン層を破壊する恐れがあると言うことで、1987年にモントリオール議定書が採択され、日本では、1995年末までにフロンガスの生産が全廃されました。2-ブロモプロパンが代替溶剤として使われ、1995年に韓国の電子部品工場の労働者に月経停止、精子減少の生殖機能障害や、血小板減少などの骨髄機能障害が発生しました。2-ブロモプロパンが原因化学 物質であろうことは、動物実験でヒトに類似した結果を得て確認されました。最近、2-ブロモプロパンの異性体である1-ブロモプロパンも市場に多く出回るようになりましたが、毒性を十分に検討したとはいえません。事実、1-ブロモプロパンの動物実験における生殖機能への毒性は2-ブロモプロパンほど強くありませんでしたが、末梢神経の伝導速度に影響がでたり、シュワン細胞の退化など、神経毒性が報告されました。また、中枢神経系への影響はまったく不明のままでした。よって、1-ブロモプロパンを暴露したラットの海馬スライス標本をつくり、応答の変化(E/S curve, paired-pulse analysis)を調べました。1-ブロモプロパン暴露による労働者の障害は幸いにもまだ報告されていません。我々の結果が、作業環境改善の対策や予防に有効な情報を提供できればと思います。 実験結果の解釈などdiscussionしていただければと思います。よろしくお願いします。

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1999年7月15日
海馬スライスにおける自発的な高頻度振動
夏目季代久
九州工業大学

高頻度、40Hz振動は、Singerらによって視覚皮質で観察され、視覚情報処理の結合問題を解く鍵と考えられている。海馬において高頻度(40Hz)振動は、1995年Buzsaki らによって、生体で、観察された。その後、海馬スライスにおいても、高頻度刺激若しくは、カルバコール投与によって、40Hz振動が誘導された、と報告された。今回、我々は、刺激、薬物投与等を行わない状態でも、振動周波数は30-59Hz、振幅は、-1200uVの40Hz振動が観察できた。今回のセミナーでは、この40Hz振動の薬理学的な性質、及びその振動のダイナミカルな側面を紹介する予定である。

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1999年9月16日
CA3-CA3シナプスのLTPとCA3の自発リズム
― 錐体細胞間のシナプス結合の強化は記憶の保持に不利?―
林 初男
九州工業大学

ラットの海馬スライスを用い,苔状線維をテタヌス刺激すると,CA3領域にLTPが起きるとともに同期化したバースト放電が自発的に生じる(Ishizuka & Hayashi, 1998)。しかし, 自発性のバースト放電を起こす直接の原因がmossy fiber‐CA3シナプスのLTPであるのか CA3‐CA3シナプスのLTPであるのかは残された問題であった。そこで,Schaffer側枝を通じてCA3錐体細胞を逆行性にテタヌス刺激して CA3-CA3シナプスのLTPを選択的に起こし,いずれのLTPが自発リズムの直接の原因であるかを調べた。結論を言えば,CA3‐CA3シナプスのLTPがCA3に生じる自発性のバースト放電の直接の原因であった。この結果は,錐体細胞間の興奮性結合の長期増強がニューロン活動の同期化を促進するということを示しているのであるが,別の見方をすれば,このようなニューロン集団は不安定で自発的にリズムを起こしやすいということになる。層内でリカレントなシナプス結合が強化されたニューロン集団が情報を保持し必要なときに取り出せると考えるのは果たして正しいのか。それに対し,afferentfiberのシナプス結合が強化されても,自発活動は起きにくい。すなわち,層間でシナプス結合が強化されたニューロン集団は安定である。解剖学的および電気生理学的知見によると,CA3には錐体細胞間に興奮性シナプスがたくさん存在するが,CA1にはあまり存在しない。海馬の記憶機構に対するCA3とCA1の役割の違いや海馬の記憶モデルについて考えてみたい。

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1999年9月30日
網膜on-off型アマクリン細胞の光応答特性
林田 祐樹
九州工業大学

網膜内の視覚系3次ニューロンであるアマクリン細胞は、その光応答特性から大きく3種のタイプに分類されています。光照射中に持続的な脱分極性の応答を示すon型、逆に過分極性の応答を示すoff型、光の明滅時にそれぞれ一過性の脱分極応答を示すon-off型です。これらのアマクリン細胞は さらに多くのサブタイプに分類されると考えられていますが、已然として各々のアマクリン細胞の生理学的な機能や、光応答波形の形成メカニズムなどに関しては不明な点が多いのが現状です。現在我々は、on-off型のアマクリン細胞の、異なる光刺激位置に対する応答の特性(時空間受容野)に注目して実験をやっています。実験方法としては、網膜上の異なる位置にスポット状の光刺激を与えて、その時の細胞内電位応答を微小電極で計測しています。その結果、記録位置と光刺激位置との距離が長くなればなるほど、電位応答がピーク値に達するまでの時間(rising time)よりも むしろ、刺激時刻から電位応答の始まるまでの潜時(hidden time)が長くなる現象が観測されました。現段階では未だ結論は出ていませんが、今のところ樹状突起上を能動的に伝搬するdendriticスパイクによるものではないか との見方を持っています。今回はこの結果を紹介して皆さんの意見をお伺いしたいと思っています。

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1999年10月21日
海馬CA3長軸方向に複数のリズムが同時に存在可能か?
-海馬縦断面スライスとマルチ電極を用いた実験-
中島 孔志
九州工業大学

海馬CA3の主要細胞である錐体細胞はCA1領域の錐体細胞に比べ頻繁に活動し,CA3には錐体細胞相互興奮結合もCA1に比べかなり多く存在する.また,海馬横断面スライスを用いた実験において,CA3はGABAaの拮抗薬により生じるてんかん様リズムやアセチルコリン作動薬により生じるθ様リズムの発生源となっている.これらの結果,CA3は海馬内で生じるリズムの発生源ではないかと考えられている.1971年にAndersonらは麻酔下ラットを用いて海馬内のネットワークが長軸方向にどのように広がっているかを電気生理学的に調べ,ラメラ構造仮説を唱えた.その仮説以来,海馬は横断面方向で主要な情報処理を行っていると考えられ,横断面の様々な特徴が明らかにされて来た.しかし,CA3領域からCA1への投射が長軸方向の約半分に広がっているなどラメラ構造仮説に反する実験結果も報告されている.ニューロンの集団活動の結果である電場電位リズムがCA3縦断面方向にどのように生じるのか大変興味深い.前回までに海馬CA3縦断面スライスとマルチ電極を用いて,苔状線維高頻度刺激によって苔状線維シナプス及びCA3錐体細胞相互興奮結合のLTPが局所的に生じ,それに伴って自発性のてんかん様リズムが局所的に生成されることを明らかにして来た.今回のセミナーではCA3縦断面スライスの異なる2個所の苔状線維を高頻度刺激したところ,自発性のてんかん様リズムが独立に2つの領域で生成された.苔状線維シナプスと錐体細胞相互興奮結合のLTPについてもその空間分布を求め,てんかん様リズムとの関係を報告する.海馬CA3長軸方向に複数のリズムが同時に存在することが海馬全体で,特にCA1 との関係をどのように考えるか議論したいと考えています.よろしくお願いします.

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1999年10月28日
transient型アマクリン細胞の光応答形成のメカニズムと機能
古川 徹生
九州工業大学

アマクリン細胞は網膜3次ニューロンであり,介在ニューロンとして内網膜の情報処理に関与する.しかしその機能については未解明の部分が多い.アマクリン細胞は光刺激に対して,持続的な応答を示すsustained型と,光刺激のon/off時にのみ一過性の応答を示すtransient型とに大別される.特に光刺激に対するtransientな光応答はアマクリン細胞において初めて見られ,それ以前の網膜神経細胞では見ることができない.
光強度や時間とともに連続変化する光刺激を用いてtransient型アマクリン細胞の持つ光応答特性を調べたところ,2つの応答成分から構成されることがわかった.ひとつは比較的線形で,緩徐な成分であり,これは光刺激強度が変化する期間,持続的に応答する.もうひとつは持続時間100msecほどのスパイク状成分であり,ある緩徐成分の応答振幅がある値を越えたところで出現する.光強度をさらに強くすると,スパイク状成分が多数集合したような光応答を示すことがわかった.光刺激を空間的に連続移動させた場合でも同様の結果が得られた.これらの結果を元に,transient型アマクリン細胞のメカニズムや機能的意義について議論したい.

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1999年11月11日
Current Source Density Analysis of the Isthmo-Tectal Projection in the Frog.
星野 徳明
九州工業大学

カエルのイスミ核は、両眼視および餌・敵の認識に関わることが報告されています。現在私は、イスミ核―視蓋間の投射について、CSD解析を用いて研究しています。今回は前回に引き続いて、イスミ核の電気刺激により、同側及び対側視蓋で誘発された CSD Depth Profile について報告します。

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1999年11月18日
論文紹介:
Anticipation of moving stimuli by the retina.
M.J. Berry, I.H. Brivanlou, T.A. Hjordan and M. Meister
八木 哲也
九州工業大学

視覚刺激の応答が脳に到達するまでには、100 msec近い遅れがあります。運動する対象物を知覚することを考えた場合、この遅れは有意な誤差を生じます。一方、心理物理の実験によれば、生体は運動する物体の位置を正確に認識しています。この"予測" 機構の一部は、網膜の神経節細胞にあるらしい。

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