2007年1月24日
「ニホンアマガエルの逆相同期発声行動に関する実験およびその数理モデル解析」
○ 合原 一究
京都大学大学院・情報学研究科・複雑系科学専攻・複雑系数理分野

ニホンアマガエルは日本全域に生息するカエルであり、春から夏にかけて水田などで鳴く様子を観察できる。 我々日本人にとって、たいへん馴染みの深いカエルである。

オスは鳴き声を発すると同時に、大きな鼓膜を備えている。そのため、特にオス同士は音声を介して相互作用していると考えられる。 このような状況は、数理的には振動子がお互いに結合した系と見なすことが出来よう。

今回、オスのニホンアマガエルを自発的に鳴かせる実験を行ない、単独では周期的に、2匹では交互に鳴く現象を見出した。 また実験データを解析することで、同期中の周期はそれぞれのカエルに固有の周期より長いこと、 2匹では逆位相から少しずれた状態で同期することを確認した。 一方で、位相振動子による数理モデル化を行ない、単独では周期的なリズムを生成する位相振動子が、 二個の結合系ではほぼ逆位相で同期して振動する現象として、実験結果を定性的に記述できることを示した。

次に、このような逆相同期発声行動がアマガエルの空間分布に与える影響を考察した。 アマガエルは、オスとメスとが一対一のペアになって抱接すること、繁殖地ではオスが低密度で分布することが知られている。 オスは交互に鳴くことで、メスに自己と最寄りのオスとを区別させ効率よくペアリングを行なうと同時に、 オス同士の間ではお互いの位置を正確に把握しある程度距離をとっている可能性が考えられる。

本セミナーでは、ニホンアマガエルの発声行動に関する実験と数理モデルを用いた解析を紹介した上で、 逆相同期発声行動がアマガエルの空間分布に与える影響について考察を加える。

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2007年1月15日
「ニューロンのデンドライトにおける情報処理の場所依存性」
○ 相原 威
玉川大学工学部

記憶に関する可塑性神経回路において、長期増強(LTP)や長期抑圧(LTD)に関する研究がなされてきた. 近年では、時間タイミング依存性の可塑性(STDP;Spike-timing dependent synaptic plasticity)が報告され (Bi et al. 1998), 理論と実験の橋渡しとして注目を集めている.しかし,神経回路の構造を考慮した可塑性誘導の検討はいまだ十分にはなされていない.
そこで本発表では、海馬ニューロンの情報処理への抑制性細胞の影響に着目し、 以下の3つの生理実験結果(及びモデルシミュレーション)を紹介する.

  1. デンドライトにおけるSTDPの場所依存性
  2. 細胞近位・遠位部の時系列情報処理の違い
  3. 細胞遠位部の情報処理への近位部入力の影響
そして神経回路の構造に基づく新たな統合的記憶情報処理様式の考察をおこなう.

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2007年1月11日
「昆虫の神経内分泌系のサーカホラリアンリズムとその同調」
○ 市川 敏夫
九州大学大学院理学研究院生物科学部門

サーカホラリアンリズム(circahoralian rhythm)とは周期が約1時間のリズムで、最も身近な例としてはヒトの睡眠-覚醒リズムがある。 その他、細胞分裂、タンパク合成、酵素活性、ホルモン分泌などに関してこの種のリズムが報告されている。 昆虫の神経内分泌系においても同様な活動リズムがよく観察されるが、それらのリズムは発達中の飛翔筋、腹部呼吸運動筋、 内臓筋などの活動リズムともよく同調していた。 サーカホラリアンリズムの発生機構、同調メカニズム、およびリズムの機能的意義などについてお話したい。

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2006年12月14日
「雌アカゲザルを用いた視覚による性弁別の行動学的研究」
○ 水野雅晴、井上貴雄、Balazs Lukats、坂井健二、佐々木亜由美、粟生修司
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

マカク属のサルはヒトに匹敵する優れた視覚能力を持ち、その機能は社会行動の中で社会的地位の認知や種の認知等に重要な役割を果たしていることが知られている。 野外での観察で、雌ザルは発情期と非発情期で同性や異性に対する行動に違いがあり、季節によって性嗜好性が変化する。 このような行動変化に視覚機能がどのように関わっているかを明らかにするために、レバー押し弁別課題および嗜好課題を行ない1) 視覚情報だけで雌雄を弁別できるか、2) 視覚的な性嗜好性を示すか、およびそれに季節依存性があるかを調べ、合わせて3) 雌雄弁別課題中の前頭眼窩皮質(OBF)からの神経活動を細胞外記録法により記録した。 その結果、サルは写真上のサルの性を弁別でき、その時、性別依存的に発火活動を示すニューロンがOBFに存在することがわかった。 ビデオ映像(動画)に対して、調べた6頭中4頭が視覚的な性嗜好性を示し、その嗜好性は、視覚対象の季節による変化に依存していることが示唆された。

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2006年11月9日
「3次元的回転運動における空間的および時間的文脈効果」
○牧野光志,○小野方子,花沢明俊
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

円筒状にランダムドットを配置し、それを回転させると、それが2次元平面に投影されたものであっても、 回転運動から3次元的な立体構造が知覚される。 この現象は運動からの立体構造復元(Structure from motion, SFM)とよばれる。 SFMにおいては、その回転方向がある方向と、その逆方向のどちらに知覚されるかは、事前に予測できない。 一方、視差によってランダムドットに奥行きをつけた3次元的円筒を回転させた場合には、 その回転方向に曖昧性がなくなり、どちらか一方向の回転しか知覚されない。 曖昧な回転方向を持つSFM円筒のすぐ隣に、曖昧性のない3次元的円筒を置き、ある方向に回転させると、 SFM円筒を構成するランダムドットのドット数が少ない場合に、SFM円筒が3次元的円筒と同じ方向に回転して知覚されるという、 空間的文脈効果を発見した。 また、最初に回転する3次元的円筒を呈示し、その後に、SFM円筒を呈示すると、SFM円筒の回転方向が、 事前に呈示した3次元的円筒と同じ方向に回転して知覚されるという、時間的文脈効果を発見した。 これらの現象は、3次元的回転運動方向を検出する脳内のメカニズムの性質を反映していると考えられる。 また、空間的、時間的局所の曖昧性を、より広範囲の情報を使って解消するという、 視覚的物体認識において一般に見られる性質のひとつかもしれない。

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2006年11月2日
「嗅内皮質-海馬系の時系列学習とSTDP学習ルール」
○林 初男、五十嵐潤、立野勝巳
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

我々は最近、嗅内皮質から海馬を経由して嗅内皮質に戻るループ回路における信号伝達遅延がγ波の周期と同程度であることに着目し、 嗅内皮質-海馬ループ回路を持つ嗅内皮質第Ⅱ層の神経回路網モデルを用い、場所の時系列をシータ位相コードできることを明らかにした。 このとき、嗅内皮質-海馬ループ結合が対称STDPルールに従って強化されるとき、 ループ結合が選択的に強化されてシータ位相コードできるが、非対称STDPルールを用いると偽結合がたくさんでき、 うまくシータ位相コードができない。 すなわち、時系列学習機構を説明するのに必ずしも非対称STDPルールが適しているわけではない。 本セミナーでは、嗅内皮質-海馬ループ回路を持つ嗅内質第Ⅱ層神経回路網のシータ位相コーディングの機構について解説し、 なぜ対称STDPルールでうまくいき、非対称STDPルールでうまくいかないのか、その原因について話をする。

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2006年9月22日
"Tracking meaningful transmissions in the mammalian brain"
○Dr. Charles D Woody
Depts. of Psychiatry & Neurobiology, UCLA Med. Ctr., Los Angeles, CA 90024

Tracking meaningful transmissions in a parallel processing system as complex as the mammalian brain seems well beyond our present capabilities. The main problems are i) obtaining direct measurements of transmission and ii) employing objective definitions of meaningfulness.

These investigations obtained serial recordings of spike activity directly from about 2000 neurons, employed averaging and correlation techniques to define ‘meaning’ relative to simple, identifiable signals, and traced these signals during their transmission within the auditorimotor relays of the brain. Transmission was assumed when significant correlations were found between aggregate activity at pairs of different relays. Significant correlations between the aggregates of spike activity and the physical representations of the signals indicated that meaningful signals could be identified and followed during transmission.

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2006年9月7日
「フットステップ錯視における静的な幾何学的錯視の寄与」
○佐藤雅之
北九州市立大学国際環境工学部情報メディア工学科

縞模様の背景上で白と黒の2つの四角形を等速で移動させると,四角形が,あたかも人の歩みのように,交互に加速と減速を繰り返しているように知覚される(http://psy.ucsd.edu/~sanstis/Foot.html). このフットステップ錯視は,人間の運動検出器の特性により,運動物体と背景のコントラストが知覚される速度に影響を及ぼすためであると考えられている(Anstis 2001, 2004). ここでは,2つの実験によりこの仮説の妥当性を検証した. 実験1では,刺激の動きを止め,その状態で観察される刺激の知覚的な位置ずれの量を測定した. 実験2では,空間変調の背景のかわりに,空間的には一様で時間的に輝度が振動する背景を用いて,その場合においても同様の錯視現象が観察されるかどうかを検討した. 運動物体と背景のコントラストが知覚される速度に及ぼす影響がこの錯視の成立において重要な役割を果たしているのであれば,動きを止めれば白と黒の四角形の知覚的な位置ずれはなくなるはずである. また,時間変調の背景でも同様の錯視が観察されるはずである. 2つの実験の結果は共にこの仮説に対して否定的であった. 静止状態においても大きな位置ずれが知覚され,時間変調の背景における錯視量はごくわずかであった. これは,フットステップ錯視の成立には,静的な条件の下で観察される一種の幾何学的な錯視の寄与が重要で,これまでの説は大きな変更を要することを示している.

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2006年7月13日
「自閉症児の睡眠の区分線形写像」
○松浦 弘典,立野 勝巳,粟生 修司
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

多くの自閉症児が睡眠障害を持つ。その特徴として、1)覚醒時刻、入眠時刻のばらつき、2)中途覚醒、3)4 歳以降の昼寝の残存がある。 本研究では、自閉症児の不規則な睡眠を示す区分線形写像を提案する。区分線形写像は、入眠時刻に対する覚醒時刻、覚醒時刻に対する入眠時刻の関係が一意に決定されるとしたものである。 パラメータに依存して1 日に夜間の1度の睡眠のみをとる周期的な状態から、昼寝や中途覚醒を起こす状態へ分岐する。 睡眠覚醒はホメオスタシス機構と生体時計機構の両者により制御されると考えられており、その代表的なモデルとして2プロセスモデルがある。 意識的な夜更かしなどがなく睡眠覚醒スケジュールが生体時計機構に従う場合は2プロセスモデルでも、入眠時刻に対する覚醒時刻、覚醒時刻に対する入眠時刻の関係が一意に決定される。 本研究では、昼寝をする時間帯を持つ2プロセスモデルを提案し、区分線形写像と同様にシミュレーションを行った。 稲沼(1984)は4歳未満、4歳以上の自閉症児及び健常児の4群について睡眠覚醒パターンの調査を行っている。 本研究では、稲沼の4群のデータと2つの提案モデルの結果を比較した。 両提案モデルは、自閉症児にみられる覚醒時刻、入眠時刻のばらつき、中途覚醒、4歳以降の昼寝の残存を示した。 健常児の周期的な睡眠パターンも再現した。

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2006年7月6日
「嗅内皮質星状細胞モデルにおける同期現象と共振特性」
○中田 一紀,林 初男
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

近年の神経生理学的知見によれば、皮質の神経細胞は力学系的な観点からIntegratorとResonatorに分類することができる。 星状細胞は典型的なResonatorであり、 位相応答特性や共振特性によって特徴付けられる。 また、抑制性介在ニューロンやノイズの効果による振動現象を示し、シータ波との強い関連性が示唆されている。 今回の発表では,星状細胞の結合系に 見られる同期振動について、 力学的に簡略化されたモデルおよびより詳細なコンダクタンスベースモデルによる考察を行うともに新たに発見された奇妙な同期現象について説明する。

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2006年6月8日
「選択的に形成される嗅内皮質―海馬閉回路結合によるシーケンス学習」
○五十嵐 潤,林 初男,立野 勝巳
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻 林研究室

ラットが探索行動を行っているとき、嗅内皮質II層は、θリズムの電場電位振動を発生する。 嗅内皮質II層の神経細胞は、このθリズムの振動のどのタイミングでの発火するかによって、場所情報を表現していることがわかっている。 このような情報表現は、発火のタイミングに依存したシナプス可塑性によって、記憶の形成や想起に関わっていると考えられ、近年注目されている。

ところで嗅内皮質は、海馬とともに閉回路構造を形成するため、嗅内皮質II層は閉回路から再帰信号を受ける。 この再帰信号と嗅内皮質II層の神経細胞の発火は、遅延をともなった特殊なタイミングを生じるが、これは記憶のシステムにおいて一体どのような役割を担っているのだろうか?

本研究では、嗅内皮質と海馬が形成する閉回路構造をもつ、嗅内皮質II層神経回路網モデルを構築し、シミュレーションを行った。 はじめにこのモデルにおいて、嗅内皮質と海馬が形成する閉回路が、発火タイミングに依存したシナプス可塑性を持つとき、選択的に特定の閉回路結合シナプスが強化されることを示す。次にその強化された結合によってθリズム一周期内で発火が連続して起こり、シーケンス情報が表現できることを示す。 最後に、どのような対象間においてシーケンスが形成され、想起されるかは、閉回路遅延が関与していることを説明する。

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2006年5月11日
「海馬スライスてんかん波発生に対するシナプス増強の役割」
○緒方 元気,夏目 季代久
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻 夏目研究室

てんかん中,脳神経細胞が同期して過剰興奮発火を繰り返し起こす. またてんかん発作が生じる脳神経ネットワーク内ではシナプスの可塑的変化が観察されることが知られている. キンドリング仮説によれば,シナプス増強がてんかん波発生の原因であると考えられている. しかしながら,そのシナプ増強がてんかん波の発生原因なのか,またその役割は何であるのか,他のてんかん波モデルでは今までの所調べられていない. そこで我々は,モルモット海馬スライスbicucullin誘導てんかんモデルを用い,てんかん波に対するシナプス可塑的変化の役割について調べた.

まず実際に,てんかん波の発生前後で,シナプス増強が起こっているかを確認し,その増強がNMDA受容体依存的,ならびにCa2+/カルモジュリンキナーゼⅡ(CaMKⅡ)依存的である事を確認した。 この事は,シナプス増強がてんかん波発生中に生じている事を示している. また,NMDA受容体阻害薬またはCaMKII阻害薬のてんかん波誘導前からの投与は,bicuculline誘導てんかん波に伴って生じるシナプス増強を有意に抑制したが、てんかん発火そのものの発生は抑制しなかった.しかしながら有意に,てんかん波の発生周波数を減少させた. さらに,てんかん波発生中にAMPA受容体競合阻害薬CNQXを投与すると,てんかん波周波数は濃度依存的に減少した.

以上の結果から,ビキュキュリン誘導てんかん波モデルでは,キンドリング仮説で言われているように,シナプス増強はてんかん波の原因では無く,シナプス増強はてんかん波の発生とは独立に生じる. また,そのシナプス増強はてんかん波の定常発生周波数を制御していることが示唆される.

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2006年4月13日
「ウシガエル(Rana catesbeiana)視蓋の衝突情報符号化神経」
中川 秀樹
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

今回の発表では、まず、これまでに様々な動物で報告されてきた、衝突回避行動のneuronal correlates の研究とその問題点について概観し、その後、私の研究室で行ったカエルについての実験結果をご紹介します。 カエル視蓋は視覚性行動の中枢として知られており、逃避行動の発現にも重要な働きをしていることがわかっています。 今回の発表では多点及び単-ユニット細胞外記録法で、視蓋に、衝突コースを接近する物体にのみ特異的に応答を示すニューロンが存在することを報告します。 これらのニューロンには以下の様な特徴がありました。 1)受容野はこれまでにハトやバッタで報告されたものより小さい。 2)受容野の中心が像の拡大中心付近に存在するときのみ活発な応答を示す。 3)接近物体の視角(θ)が一定の値(θ=14.6°±3.4°; n=16)に到達した時、最大応答を示す。 以上の結果に基づき、衝突情報符号化神経の応答生成メカニズムについても議論してみたいと思います。

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2006年4月6日
「海馬歯状回のバンドパス・フィルタ特性-モデル編」
立野 勝巳
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

海馬歯状回はθリズム周波数帯域の周期シナプス刺激に応答しやすい。 今回の発表では、計算機モデルにより、歯状回のフィルタ特性のメカニズムを考察する。 提案するモデルは、セルラーオートマトン型の単純なモデルと、ホジキン-ハクスレイ型モデルの2つである。 セルラーオートマトン型モデルで原理を説明し、ホジキン-ハクスレイ型モデルにより、神経回路網として機能する場合のフィルタ特性を説明する。

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