2009年11月12日(木) (会場 2F 講義室2)
温度依存する同期遷移とニューロンモデルの位相応答曲線
○佐藤 能臣
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

神経情報処理で重要な役割を果たすとされるニューロンの同期活動に注目する.神経温度が同期活動に与える影響を知ることで,モデリングの観点から,同期活動の発現機構の理解を深める.神経温度がニューロンの同期活動に与える影響や効果についてはほとんど知られていない.神経温度に依存してニューロン活動が規定されるという神経情報処理機構についてもまたこれまで報告がない.近年,温度環境に依存した神経情報処理機構の存在が初めて示唆された(Shibazaki et al. J. Neurosci. 2007).ニューロン同期活動の発現メカニズムを理解するとき,位相応答曲線と呼ばれるスパイク特性が重要な役割を果たす.その位相応答曲線と温度との関係を明らかにする.その他のスパイク特性(発火周波数や活動電位持続時間)と温度との関係を示し,過去の実験結果と比較検証する.2種類の異なるニューロンモデルを用い,温度に依存した同期活動遷移の挙動的共通性・相違性を紹介する予定である.

2009年11月5日(木) (会場 2F 講義室2)
行動計画にもとづくカエル衝突回避行動の制御と閾値検出器としての衝突感受性神経細胞の役割
○中川 秀樹
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

これまでカエルや昆虫の様な比較的単純な脳構造を持つ動物の行動発現は、感覚情報により直接的に制御される定型的なものと考えられてきた。しかしながら、今回我々は、カエルの衝突回避行動が視野における刺激の位置という感覚情報を重要な鍵としながらも、自らの行動計画によって感覚系、運動系の両側面において、より適応的に制御されているという可能性を見出したのでご報告する。また、この衝突回避行動戦略が果たして本当に有効に機能し、彼らは生き延びることができるのかを検証した結果も合わせてご紹介する。最後に、この衝突回避行動の発現に重要な役割を果たすと考えられる中脳視蓋に存在する衝突感受性神経細胞の特性について最近得られた成果をまとめてご紹介する。

H.Nakagawa会場の様子

2009年10月1日(木) (会場 2F 講義室2)

薬物依存と食べ過ぎの神経メカニズム
○成清 公弥
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

薬物依存は日本でも広く社会問題と認知されるようになってきているが,近年,過食や肥満などにも,この薬物依存と類似の側面があることが明らかになりつつあり,食べることをやめたくてもやめられないという状態になってしまっている可能性が示唆されている.また依存にまでは至らずとも,意に反して食べ過ぎてしまうといったことは日常多くの人が経験していることと思われる.この点に関して薬物依存と過食の神経メカニズムの類似点を明らかすることは,過食や肥満の新たな予防・治療法の開発につながることが期待される.今発表では,主に覚せい剤などの乱用性薬物による研究により明らかになった依存の神経メカニズムを概観すると共に,これと過食や肥満との関連性を考察する.またこの視点にたって,薬物依存において治療効果があるとされる物質のひとつを過食の治療薬として油脂過食モデルラットを使って検討しており,この研究についても紹介する.

K. Narikiyo会場の様子

2009年9月10日(木) (会場 2F 講義室2)
病理的なリズムてんかん波と機能的なリズムβ波の同期性についての研究
○夏目 季代久
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

脳内リズムには、病理的なリズムであるてんかん波と、記憶・学習などの機能的なリズムである、θ波、β波、γ波がある。てんかん波は、時に記憶障害を伴う事が報告されているので、記憶を抑制すると考えられる。一方で、θ波、β波は、記憶の記銘・想起に関わっていると考えられている。てんかん波、θ波、β波などは、神経細胞の同期的な発火現象と考えられているが、それらの違いは、現在の所、明らかにされていない。そこで、本研究では、病理的なリズムであるてんかん波と、機能的なリズムであるβ波の違いを明らかにする事で、機能的なリズムとはどういうものか考えてみたい。

海馬スライスにおいて、細胞外記録法を用いて、てんかん様発火を再現できるが、てんかん様発火は錐体細胞集団の同期的なリズム現象である。GABA(A)受容体阻害薬であるビキュキュリンを投与して誘導したてんかん様発火モデルから、その時、リズム生成に伴い、シナプス可塑的変化が生じているのではないか、と言う結果を得た。

またピクロトキシン誘導てんかん様発火に、アセチルコリン作動薬である、カルバコールを投与すると、振幅の小さいβ振動が得られる。てんかん様発火に比べると振幅が小さいという事は同期発火している細胞集団が少ない事を示している。またてんかん様発火→β振動の時、集合興奮性シナプス後電位(pEPSP)も抑制されていた。この事は、てんかん様発火→β振動の時、pEPSPの減少に伴い、錐体神経間の脱同期が生じβ波が誘導されたと考えられる。しかし、pEPSPをCNQXで減少させてもβ振動は起こらなかった。この事はpEPSPの減少だけがてんかん波→β波の原因では無く、他にも要因がある事を示唆している。現在では、その要因はGABA(B)受容体の活性化と考え実験を行っている。

前述したように、てんかん波中、記憶の抑制が起こる。またラットの実験からβ波は記憶の想起に関わっていると考えられている。それらの機能の違いは細胞集団の同期性の違いによって生じるのではないか、と思われる。てんかん様発火では数多くの錐体細胞が同期し、β波では小集団が同期しているのではないか、と思われる。つまり、脳が機能を持つためには、ある程度の小集団の同期が維持される必要があると考えられる。

K. Natsume会場の様子

2009年7月9日(木) (会場 2F 講義室2)

マウス味蕾細胞の電気的特性を生かした信号検出の数理モデル
○立野 勝巳
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

マウスの味蕾細胞は細胞型ごとに電気生理学的特性が異なることがわかってきています。そこで、味蕾細胞の電気的特性の違いを取り入れた数理モデルを作成し、ネットワークモデルを構成しました。今回の発表では、提案ネットワークモデルによる信号検出について紹介します。

K. Tateno 会場の様子
2009年7月2日(木) (会場 2F 講義室2)

味蕾細胞の電位依存性ナトリウムチャネルと活動電位
○大坪 義孝
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

味覚器を形成する味蕾細胞は、味物質受容時に活動電位を発生する。神経細胞と同様に味蕾細胞においても活動電位は情報伝達に重要な役割を担っている。本セミナーでは、味蕾細胞の組織学的・機能的分類および味情報変換機構について概説し、味蕾細胞に発現する電位依存性Naチャネルのサブタイプおよび各細胞型における電位依存性Naチャネルの電気生理学的性質を紹介する。また、各細胞型の味情報伝達における活動電位の役割について考察する。

Y. Otsubo 会場の様子 会場の様子 講演後の様子

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2009年6月11日(木) (会場 2F 講義室2)

抗うつ薬SNRI及び SSRIによるカテコールアミン動態への影響
○柳原 延章
産業医科大学医学部薬理学講座

最近の日本における自殺者は毎年3万人を越えており、昨年の交通事故による死亡者(約5150人余り)と比べてはるかに多い数です。この自殺の原因の1つにうつ病があると言われ、昨今のうつ病対策が益々重要性を増しています。そこで、今回は「抗うつ薬SNRI(Serotonin Norepinephrine Reuptake Inhibitor)及びSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor)によるカテコールアミン動態への影響」についてお話します。

具体的には、まずうつ病の成因(モノアミン仮説など)を簡単に解説し、その後私達の研究室において過去に報告してきた抗精神病薬や抗うつ薬によるカテコールアミン生合成や遊離に及ぼす影響についてイントロ的にお話します。そして臨床で頻繁に使用されていますSNRIやSSRIによるノルエピネフリントランスポーターやカテコールアミン生合成の影響について、最近の知見をご紹介します。さらに、一酸化窒素合成酵素(NOS)とうつ病との関連性についても言及し、最近私達の研究室において世界で初めて開発されたトリプルNOS完全欠損マウスの心血管系及び代謝系の異常やその行動異常についてもご紹介する予定です。

N. Yanagihara N. Yanagihara 会場の様子 会場の様子

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2009年6月4日(木) (会場 2F 講義室2)

ラット海馬歯状回における発火時刻に依存したシナプス可塑性(STDP)
○石塚 智
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

我々は常に環境から種々雑多な感覚情報にさらされており、その中から必要な情報を選択および統合して記憶している。海馬はこれらの機能を果たす重要な場所で、海馬の入り口に位置する海馬歯状回は嗅内皮質から入力される多様な感覚を選択および統合している。嗅内皮質は内側嗅内皮質と外側嗅内皮質からなり、それぞれ物体情報(形、色、におい、味など)と場所情報と関連している。内側嗅内皮質は、内側貫通線維により歯状回・分子層の中間層にシナプス結合し、外側嗅内皮質は歯状回・分子層の外側層にシナプス結合する。内側貫通線維ー顆粒細胞シナプスのSTDPの実験結果を報告し、すでにわかっている外側貫通線維ー顆粒細胞シナプスのSTDP関数と比較し議論する。

S. Ishizuka 会場の様子 (Photos by Dr.Otsubo)

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2009年5月21日(木) (会場 2F 講義室2)

生存脳-情動脳-社会脳ネットワークの化学環境依存性
○粟生 修司
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

1)生体内環境をモニターしながら適切な食物やパートナーを視覚情報や味覚・嗅覚などの化学感覚情報により認識し、個体維持・種保存機能を発現する生存脳、2)環境からの情報を受容しながら個体内で感覚-運動系を統合し、自己あるいは自己が所属する集団にとって益か害かを総合評価する情動脳、3)他者の行動や感情を理解したり、他者の思考過程を推定し、社会集団の構築に寄与する社会脳が密接なネットワークをつくっていることが明らかになっている。この生存脳-情動脳-社会脳ネットワークは発達期のわずかな化学環境変化に鋭敏に反応し、成長後まで持続する永続的影響を受ける。その影響の多くは核内受容体を介して発現すると考えられているが、まだ不明の点も多い。環境中の核内受容体作動性物質は妊娠期、周産期、授乳期などの曝露時期によりその影響が異なり、種差や系統差も認められている。モノアミン系は生存脳-情動脳-社会脳ネットワークの化学環境依存性で鍵となる役割を果たしており、核内受容体作動性化学物質の性依存的・時間依存的作用の主要な標的と考えられる。

S. Aou S. Aou 会場の様子

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2009年5月14日(木) (会場 2F 講義室2)

各種イオンチャネルに対するスーパーオキサイドの作用
○吉井 清哲
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

スーパーオキサイドは、負電荷を持つ酸素分子であり、1O2やH2O2などとともに活性酸素種を形成する。これら活性酸素種は、情報伝達、発ガン、老化、生体防御など多様の役割を持つ。分子レベルでは、活性酸素種の各種Kチャネルやリアノジン受容体への作用が報告されている。我々は、ルシファーイエローCHを露光するとスーパーオキサイドが生成すること、このスーパーオキサイドが電位依存性Naチャネルの開口時間を延長すること、外向き整流性および内向き整流性Kチャネル電流を増強すること、AMPA受容体チャネル電流を増強することなどを発見した[1-3]。本口演では、修飾作用発見に至る過程、修飾の様式、LYを使用する危険性について解説する。また、これらの修飾作用のLTP生成への寄与を考察する。

  1. Higure, Y., et al., Lucifer Yellow slows voltage-gated Na+ current inactivation in a light-dependent manner in mice. J Physiol, 2003. 550(Pt 1): p. 159-67.
  2. Takeuchi, K. and K. Yoshii, Effect of superoxide derived from lucifer yellow CH on voltage-gated currents of mouse taste bud cells. Chem Senses, 2008. 33(5): p. 425-32.
  3. Takeuchi, K. and K. Yoshii, Superoxide modifies AMPA receptors and voltage-gated K+ channels of mouse hippocampal neurons. Brain Res, 2008. 1236: p. 49-56.
K. Yoshii K. Yoshii 会場の様子
2009年4月16日(木) (会場 2F 講義室2)

性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH, LHRH)の生殖機能における役割
○水野 雅晴
九州工業大学大学院生命体工学研究科脳情報専攻

性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRHあるいはLHRH)は、アミノ酸10個からなる神経ペプチドである。動物の生殖機能に中心的な働きを担っているホルモンとして知られ、下垂体から性腺刺激ホルモンを放出させるホルモンとして視床下部から見いだされた。GnRHの放出様式は、パルス状放出と大量放出の2種類があり、それぞれ機能的な役割が違う。一方、ほ乳類を含む多くの脊椎動物では、主に3つのGnRH系が存在する。上述の視床下部−正中隆起GnRH系と、終神経GnRH系、中脳GnRH系である。セミナーではGnRHニューロンの発生学的成り立ちを概観し、正中隆起GnRH系のパルス状分泌に対するステロイドホルモンによる負のフィードバック作用の内分泌学的メカニズムについて述べる。