2012年12月13日(木) (会場6F 脳情報専攻セミナー室)
ショウジョウバエ筋接合部シナプスにおける逆行性シナプス伝達調節機構

○鶴留 一也
McGill University Department of Physiology

 運動神経が筋肉へ情報伝達を行う筋接合部シナプスは、中枢からの指令を伝えて筋肉に適切な運動をひき起こすために重要なシナプスである。ショウジョウバエの筋接合部シナプスはグルタミン酸作動性シナプスであり、主要な受容体チャネルのサブユニットの一つGluRIIAの変異によって、チャネル開口時の膜通過電流量が減少することが分かっている。しかし一方でGluRIIA変異体では、伝達物質の放出量を増加することにより、運動神経からのシグナルを野生型と同程度の強度で伝えることが示されている。これはシナプス後細胞におけるGluRIIAチャネル異常に起因する状態変化が、シナプス前細胞での伝達物質放出量の増加をひき起こすという、逆行的なシナプス機能の補償機構が存在することを示唆している。我々のグループではシナプス前細胞においてmicro RNAがこのシナプス機能の補償機構による伝達物質放出量の増加に寄与していることを発見した。さらにシナプス後細胞においては、TOR (Target Of Rapamycin)がタンパク質の翻訳機構を制御することにより、逆行性のシナプス補償機構を働かせていることを示した。逆行性のシナプス伝達調節機構についてはまだ不明な点も多いが、これらの発見が更なるシグナル伝達経路の解明に発展すると期待される。
 
 2012年6月14日(木) (会場 2F 講義室2)
神経間情報伝達を支えるシナプス小胞ダイナミクス:
小胞エンドサイトーシスの逆行性・PKG依存性制御メカニズムとその生後発達変化

○江口 工学
沖縄科学技術大学院大学・細胞分子シナプス機能ユニット

神経細胞間の接点であり情報伝達の場である「シナプス」の前末端には多数のシナプス小胞が内包されており、この小胞内に神経伝達物質が高濃度に蓄積されている。シナプス小胞がシナプス前末端の膜に融合・開口することによって神経伝達物質はシナプス間隙へと放出され、シナプス後膜上の受容体によって受容される。伝達物質の放出後、末端膜に融合した小胞膜はエンドサイトーシスによって前末端内に回収され、シナプス小胞として再形成後、シナプス伝達に再利用される。シナプスが高頻度の伝達を長時間維持するためには、シナプス小胞の融合・開口と回収のバランスをとる仕組みが必要だが、その詳細は明らかではなかった。今回、我々はラット脳幹の聴覚中継巨大シナプスcalyx of Heldにおいて、小胞の開口と回収とのバランスをとるための逆行性制御メカニズムを明らかにした。この制御機構は、(i)伝達物質グルタミン酸によるシナプス後膜NMDA受容体の活性化、(ii) NOの産生・放出、(iii)シナプス前末端PKGの活性化、(iv) PIP2の動員、 (v)エンドサイトーシスの加速、という一連のシグナル連鎖によって作動することを突き止めた。この逆行性制御機構は、生後2週齢以降、PKGの発現上昇に伴って作動を開始し、高頻度入力を高信頼性に伝える高速シナプス伝達機能の生後発達に貢献するものと考えられる。

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