一般講演

（発表者にアンダーライン）

NTS神経細胞活動とシナプス伝達-ラットスライス標本を用いた検討
紫原美和子（九州大学大学院・医学研究院・循環器内科）

　NTSは、動脈圧受容器からの入力を受け最初にシナプスを形成する部位であり、中枢性循環調節の制御に重要な役割を果たしている。我々は、in vitroスライス標本を用いて電気生理学的・薬理学的検討を行い、NTS神経細胞活動、受容体及びシナプス伝達に関して主要な神経伝達物質であるグルタミン酸（Glu)及びアセチルコリン（ACh)の役割、エンドセリン（ET-1)の役割について検討し、以下の研究成果を得た。１）GluあるいはAChをNTS神経細胞に電気泳動的に作用させるとNTS神経細胞活動が増加した。 NTSへの求心性神経線維である孤束を電気刺激したときのNTS神経細胞の反応は、 NMDA受容体拮抗薬では抑制されずnon-NMDA受容体拮抗薬によって抑制された。この成績は孤束からNTSへの神経伝達物質はGluであり、non-NMDA受容体を介することを示唆する。AChに対する反応は、アトロピンあるいはクラーレによって抑制されムスカリン様受容体とニコチン様受容体の両者が存在することが明らかになった。２） NTS神経細胞に ET-1を電気泳動的に作用させるとNTS神経細胞活動が増加し、この効果はETA受容体拮抗薬（BQ-123）によって抑制され、BQ-123により自然放電頻度も抑制された。さらに、WKYではET-1によりGluによる反応が増強したが、SHRでは変化を認めなかった。以上の成績からET-1がETA受容体を介してNTS神経細胞活動を増加させ、内因性ET-1もNTS神経細胞活動を修飾していること、WKYではET-1はNTS におけるシナプス伝達を促進させるがSHRではそれが減弱していることが示唆された。

神経可塑性関連タンパク質のシナプス局在化制御機構：Vesl-1S/Homer-1aはproteasome阻害剤により、そのタンパク量は増大し、シナプス領域への局在化を促進する。
　上田洋司、加藤明彦、杉山博之（九州大学大学院・医学研究院・細胞表層機能学）

　long-term potentiation (LTP) に伴って発現誘導されるタンパク質 Vesl-1S/Homer-1aには、スプライスヴァリアントして構成的に発現するVesl-1Lが存在する。また、類縁遺伝子として、vesl-2, 3 遺伝子の存在も明らかとなっている。本発表では、Vesl-1Sの局在化とタンパク量の制御について報告する。Vesl-1S, 1L,2, 3をそれぞれ同じ転写翻訳開始シグナルから発現するように構築したプラスミドを作成し、COS7細胞に遺伝子導入を行った。これらの細胞にproteasome 阻害剤である MG132とlactacystin、cathepsin及びcalpainの阻害剤であるE-64-dの投与を行った。 Vesl-1S のタンパク量は、MG132, lactacystinの投与で顕著に増大し、E-64-dの投与では影響はなかった。そして、Vesl-1L, 2, 3のタンパク量はいずれも、薬剤の影響はなかった。Vesl-1Sのdeletion 解析から、C末の11アミノ酸を削除する事でそのタンパク量は増大しproteasome 阻害剤の影響を受けなくなった。次に我々は、培養神経細胞におけるproteasome阻害剤の影響を調べるためにウエスタンブロット及び免疫組織染色を行い、Vesl-1Sのタンパク量と局在を解析した。その結果、MG132の投与によってVesl-1Sのタンパク量は増大し、MG132, lactacystinの投与によって、ニューロン周縁部に点在するVesl-1Sのドット状構造の数が増大した。この構造はsynaptophysinのドット状構造とcolocalizeしていた。これらの結果は、Vesl familyのうち、LTPで誘導されるVesl-1Sだけがproteasomeによって分解され、その分解シグナル配列はC末に存在している事を示しており、Vesl-1Sのpostsynaptic領域への分布がproteasomeによって制御されている可能性がある。

ミクログリアの外因性抗原提示機能におけるカテプシン群の役割
西奥　剛、山本　健二、中西　博（九州大学大学院・歯学研究院・口腔機能分子科学）

ミクログリアが脳内で抗原提示細胞としの役割を果たしていることは良く知られている。ところが、外因性抗原の提示におけるインバリアント鎖ならびに外因性抗原のプロセッシングにカテプシン群がどのように関与しているのかはほとんど不明である。そこでミクログリアの外因性抗原提示機構におけるカテプシン群の役割を明らかにする目的で以下の実験を行った。�ovalbumin (OVA) 特異的T細胞ハイブリドーマと新生仔マウスの全脳より調整した初代培養ミクログリアとの共培養系を構築し、インターロイキン-2（IL-2）の産生分泌をT細胞活性化の指標として種々の特異的カテプシン阻害剤の影響を検討した。�インバリアント鎖のプロセッシングにおけるカテプシン群の関与を検討する目的で、種々の特異的カテプシン阻害剤で処理したミクログリアにおけるインバリアント鎖の状態をウエスタンブロット法により解析した。�外因性抗原（OVA）の抗原ペプチドへのプロセッシングにおけるカテプシン群の関与を検討する目的で、 OVA特異的T細胞ハイブリドーマとパラホルムアルデヒドで固定した初代培養ミクログリア細胞との共培養系に、OVAをカテプシン群の精製酵素で処理（pH 5.5）することにより生成された消化断片を加えIL-2の測定を行った。以上の実験により得られた結果よりミクログリアの外因性抗原提示においてインバリアント鎖の分解には主にカテプシンSならびにBが関与し、OVAの抗原ペプチドの生成にはアスパラギン酸プロテアーゼであるカテプシンEならびにDが関与していることが示された。さらにカテプシンEならびにDのミクログリアにおける局在をそれぞれの特異的抗体を用いて調べた結果、両酵素それぞれ初期エンドソームならびにリソソームに主に局在していることが示された。この結果よりOVAの抗原ペプチドの生成にはカテプシンEがより重要な役割を果たしていることが示唆された。　

延髄最後野と自律神経系機能
有海秀人、高野行夫、神谷大雄（福岡大学・薬学部・薬理学教室）

　今回は、最後野に存在するタキキニンNK-1およびバソプレッシンV1受容体がそれぞれ嘔吐反応や血圧調節に重要な役割を果たしていることを報告する．従来から chemoreceptor trigger zone (CTZ) と考えられていた最後野 (AP) が、モルヒネのような中枢性の催吐薬に対して、重要であるとされていたが、硫酸銅や一部シスプラチンのような末梢性催吐薬ではあまり重要視されていなかった．しかし、中枢性嘔吐反応は循環血液中の催吐成分が直接最後野を刺激した後、最後野 NK-1 受容を介して惹起されること、さらに迷走神経求心線維および内臓知覚神経を介する末梢性嘔吐も最後野のNK-1 受容体が重要な役割を果たしていることを明らかとした．
　一方、動脈圧受容器反射は、圧受容器が感受した末梢血圧の変化を中枢（延髄）に伝え交感神経や迷走神経の活動を増減させ、血圧を一定に維持しようとする．そこで最後野にバソプレッシン受容体が密に存在していることから、最後野のバソプレッシン受容体が、交感神経活動に影響を与えて圧受容器反射を調節しているのではないかと考え、その受容体サブタイプと神経連絡について検討した．その結果、動脈圧受容器反射の感受性調節には最後野のV1 受容体が深く関与していること、さらにその受容体の連絡は、孤束核のnon-NMDA 受容体へのグルタミン酸性神経により、圧受容器反射を調節していることを明らかとした．

砂ネズミ海馬一過性前脳虚血後のAkt活性の変化
河野隆幸（熊本大学・医学部・第一薬理学講座）

Akt (protein kinase B; PKB)は、インシュリン、細胞増殖因子などの刺激によりそのThr308とSer473がリン酸化され、活性化される。活性化されたAktは、様々な刺激によるアポトーシスの誘導に対し、細胞を生存へと導くことが近年報告されている。
【目的】一過性前脳虚血後の海馬におけるAkt活性化反応の変動と遅発性神経細胞死誘導との相関性を検討した。
【方法】Adult Mongolian gerbilを全身麻酔下に両側総頚動脈を露出し、5分間の一過性前脳虚血を施行した。虚血再灌流直後、2, 6時間後1, 2日後に海馬CA1、3領域を採取した。実験条件によりAktを活性化することが知られているInsulin-like growth factorI (IGF-I)を脳室内に投与した。抗リン酸化Akt (Ser473)抗体を用いイムノブロットを行った。
【結果】CA1領域のAktのリン酸化反応は虚血再灌流直後に低下し、6時間後には対照に比し有意に上昇した。CA3領域では、虚血再灌流直後のリン酸化反応の低下を認めなかった。IGF-I投与により、CA1領域の遅発性神経細胞死は抑制され、虚血再灌流直後のAktのリン酸化反応の低下が抑制された。
【結論】虚血再灌流直後のAktの活性低下は一過性前脳虚血後のCA1領域の遅発性神経細胞死に関与し、IGF-Iの神経保護作用はAktを介していることが示唆された。