視床下部には、摂食や生殖あるいは体温を調節する神経機構があり、ブドウ糖感受性 ニューロン、エストロゲン受容ニューロンおよび温度感受性ニューロンが各機能に関連 して特異的な活動様式を示す。これらの個体維持・種族保存機構は各々が独立している わけでなく、相互に重複した共受容・共調節機構を形成している。とくにブドウ糖/エ ストロゲン/温度共受容機構はサイトカイン類にも高い感受性をもち、複数の高次ホメ オスタシス調節に関与する。この中には免疫・生体防御、学習記憶、カルシウム代謝調 節なども含まれ、新しい視床下部機能として注目されている。本来、視床下部個体維持・ 種保存機構は非常に安定した調節機能を有するが、最近、この個体維持・種族保存機能 に種々の破綻が起きている。その中には脳内の機構だけでは説明のつかない現象も認め られる。そこで外界環境因子の内分泌撹乱物質に注目し、その行動および脳への影響を 調べると、妊娠期および授乳期の母ラットへの曝露が、子ラットの性成熟や体重調節、 さらには電解質代謝に影響を及ぼすことが明らかになった。さらに生殖毒性を示さない 濃度でも行動とくに非生殖的行動および一部の脳の性分化を障害した。本研究会では、 無麻酔ザルの摂食、性行動、体温調節行動中の視床下部ニューロン活動の解析から、新 しい視床下部機能の発見、さらに環境化学因子の中枢作用の解析に至る研究経過を実験 の裏話を交えながら紹介する。