一般講演2


ニコチンによる濃度依存性ドーパミン/DARPP-32情報伝達調節機構 : マウス線条体スライスを用いた解析

○浜田美保、西 昭徳1,2

久留米大学医学部生理学第一講座、薬理学講座2

ニコチン性アセチルコリン受容体 (nAChR)は中枢神経系では主として神経終末に発現し、神経伝達物質の放出を調節することが知られている。線条体ではドーパミン作動性神経終末にはα4β2*nAChR が、グルタミン酸作動性神経終末にはα7nAChR が発現しており、それぞれドーパミン、グルタミン酸の放出を促進している。nAChR を介するドーパミン放出はパーキンソン病の病態と密接に関わっており、喫煙者ではパーキンソン病の発症率が低く、ニコチンはパーキンソン病に対して治療効果を示すことが知られている。また、統合失調症や注意欠陥多動障害ではニコチンにより認知障害が改善することも報告されている。しかし、nAChRを介した作用が行動障害、認知障害を改善する分子機構、ニコチン依存症を来す分子機構は未だ明らかではない。 
 線条体ニューロンmedium spiny neuron)には、ドーパミンにより制御されるリン酸化蛋白DARPP-32 (dopamine- and cAMP-regulated phosphoprotein, Mr 32 kDa) が選択的に発現している。DARPP-32 は、Thr34 残基が PKA によりリン酸化されると PP-1 抑制蛋白として作用し、PP-1 基質のリン酸化レベルを調節することで線条体神経機能を調節している。多くの神経伝達物質の作用は DARPP-32 リン酸化を介して統合されるため、DARPP-32 は線条体での情報統合機構解析モデルとして優れている。本研究では、ニコチンによるDARPP-32のThr34残基リン酸化調節をマウス線条体スライスを用いて検討した。
 ニコチン (100μM) はDARPP-32 Thr34残基リン酸化を一過性に促進した。ニコチン(100μM)によるリン酸化上昇は、ドーパミンD1拮抗薬SCH23390、DHβE(α4β2* nAChR拮抗薬)、α-bungarotoxin(α7 nAChR拮抗薬)およびNMDA/AMPA受容体拮抗薬により抑制された。一方、ニコチン (1μM) はDARPP-32 Thr34残基リン酸化レベルを低下させた。ニコチン(1μM)によるリン酸化低下はドーパミンD2拮抗薬racloprideおよびDHβEにより抑制されたが、α-bungarotoxin、NMDA/AMPA受容体拮抗薬では抑制されなかった。
 以上より、ニコチン (100μM)は α7nAChR活性化によりグルタミン酸を放出し、ドーパミン作動性神経終末においてα4β2* nAChRとNMDA/AMPA受容体が相乗的にドーパミン放出を促進すると考えられた。その結果、ドーパミンD1情報伝達を増強する事が示唆された。一方、 ニコチン(1μM)は α4β2* nAChRのみを活性化し、α4β2* nAChR刺激により放出されたドーパミンは選択的にドーパミンD2 情報伝達を増強する事が示唆された。