一般講演3

網膜神経節細胞の活動電位発火メカニズムに対するドーパミン作動性調節

林田祐樹(1,2),Andrew T. ISHIDA(2)

(1)熊本大学工学部電気システム工学科,(2)Section of Neurobiology, Physiology, & Behavior, University of California, Davis.

一般的に,視覚環境における背景光の平均強度を上昇させると,観測者の光に対する感受性が減少することが知られている。過去の幾つかの研究では,神経調節物質の一種であるドーパミンが,網膜神経回路の持つ機能的特性を変化させることにより,このタイプの光順応に寄与していることが示されている。近年,網膜回路の出力に位置する神経節細胞において,D1型ドーパミン受容体の活性化により,1)in situでの細胞内cAMPレベルが上昇すること,2)膜興奮性が抑えられることが示された。そこで本研究では,キンギョ及びラット網膜より単離した神経節細胞に穿孔パッチ(perforated-patch)法を適用し,discontinuousモードの膜電位/電流固定下で,スパイク発火メカニズムに対するD1型ドーパミン受容体活性の影響を調べた。
膜電流固定実験では,白色ノイズ様fluctuating電流の注入により誘発されたスパイクの発火数および個々のスパイク波形の立ち上がり電位傾斜(dV/dt)が,D1型ドーパミン受容体の選択的アゴニストであるSKF38393(又SKF81297)の投与により減少することが示された。また膜電位固定実験では,脱分極ステップにより活性化される電位依存性Na+電流の振幅が,SKF38393によりを減少することが示された。8Br-cAMP(膜透過性cAMP)及びSp-5,6-DCl-cBIMPS (PKAの選択的活性物質)もNa+電流振幅に対し同様の効果を示した。さらにSKF38393は,スパイク発火の閾値よりも低い電位(sub-threshold potential)におけるNa+チャネルの不活性化速度(rate of entry into inactivation),及び不活性化後のチャネルの回復速度(rate of recovery from inactivation)を変化させることが分かった。これらの電位依存性Na+電流の変化により網膜神経節細胞におけるスパイク発火の抑制が説明されることを,NEURONを用いた計算機シミュレーションにより確認した。