一般講演5
ドーパミン神経の神経突起伸長を促進するコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの構造と細胞内情報伝達機構の解析
○ 外角直樹1、Linda C. Hsieh-Wilson 2、西 昭徳1
久留米大学医学部薬理学講座1、California Institute of Technology 2
プロテオグリカンとは、コア蛋白質にグリコサミノグリカン鎖が共有結合した糖鎖分子の総称である。中枢神経系においてコンドロイチン硫酸プロテオグリカン (CSPG) は、神経細胞の膜表面や細胞間隙に分布している代表的な糖鎖分子であり、グリコサミノグリカン鎖の基本二糖類構造の違いによりコンドロイチン硫酸 (CS)-A ~ E の5つのタイプに分類される。CSPGは、神経細胞の接着や遊走、神経突起の形成、シナプス可塑性や神経保護などに関与しており、脳の構造と機能を決定する重要な分子群の一つである。しかしながら、その作用が CSPGのどのような構造を認識して惹起されているのかはほとんど解明されていない。本研究では、ドーパミン神経に対して生理活性を示すCSPGの構造と、CSPGにより活性化される情報伝達機構について検討した。
胎生15日のラット中脳より、ドーパミン神経細胞を含む初代培養細胞を調整し、CS-A ~ E をコートしたプレート上に細胞を撒布した。5日間培養後、免疫染色法によりドーパミン神経細胞を染色し、染色された細胞の神経突起の長さをNeurolucidaにより測定した。
CS-E をコートした場合には、poly-L-ornithine をコートしたコントロール群に比べて神経突起伸長を有意に促進した。この変化は、CS-A ~ D をコートした場合には認められなかった。この CS-E による神経突起伸長促進作用は、コンドロイチナーゼ ABC 処理によりCS-E を断片化することにより有意に減弱した。CS-E は、その他の CS に比べて基本二糖類構造中の硫酸基の結合位置が異なり、この構造の違いが神経突起伸長に重要であると考えられる。そこで、CS-E の基本構造である二糖類、その二糖類から合成した四糖類を用いて神経突起伸長を検討した。CS-E の基本構造である二糖類は、神経突起促進作用を示さなかったが、この二糖類から合成した四糖類は神経突起伸長を促進した。また四糖類の硫酸基を水酸基に置換すると突起伸長促進作用は認められなかった。次に、神経細胞内の情報伝達機構を検討した。 CS-E による神経突起伸長促進作用は、フォスフォリパーゼ C (PLC) 阻害剤である U73122、プロテインキナーゼ C (PKC) 阻害剤である Bisindolylmaleimide、イノシトール1,4,5-三リン酸 (IP3) レセプター阻害剤である Xestspongin Cの培養液中添加により有意に抑制された。
以上より、CS-E は、ドーパミン神経の突起伸長促進作用を示し、その活性基本構造は、CS-E の基本二糖類構造からなる四糖類構造(配列)であることが示唆された。さらに、CS-Eによる突起伸長促進作用は、PLC が活性化されることで生成するジアシルグリセロールによる PKC の活性化と、IP3 による細胞内カルシウムの上昇を介して引き起こされると考えられた。