テクニカルセミナー

シミュレータNEURONを用いた神経回路網モデル
−海馬歯状回を例として−


○立野勝巳、林初男、石塚智

九州工業大学大学院 生命体工学研究科 脳情報専攻

  NEURONは神経細胞の計算機シミュレーションをサポートするソフトウェアです。Duke大学のMichael HinesとYale大学のJohn W. Mooreの共同研究により開発され、無料で提供されています。NEURONを使ってプログラムをすると、容易に神経細胞シミュレーションができますので、講義に用いることも可能ですし、他の研究者との情報共有も容易になります。Windowsだけでなく、Linux、Mac OSなどの異なるOS上でも共通のプログラムで動作するところも便利です。
 神経細胞の計算機シミュレーションをする場合、目的の神経細胞のイオンチャネルの膜電位依存性を知る必要があるのはもちろんですが、それ以外に数値積分のアルゴリズムや波形の描画のためのプログラムなど、神経細胞の性質とは直接関係ないところも勉強しておく必要があります。授業で習ったヤリイカの巨大軸索モデルをちょっと自分でシミュレーションしてみようと思っても、乗り越えなければならないハードルがいくつかあります。NEURONはそんな問題を乗り越える手助けしてくれます。しかし、NEURONを使おうとすると、今度は当然NEURONのプログラムの書き方を勉強しなければなりません。結局、プログラムの勉強をしなければならないので、FORTRANやC言語と同じことのように思えます。ところが、FORTRANやC言語を使用するより、NEURONは神経細胞モデルシミュレーションに特化しているため、汎用言語よりやさしくプログラムを作ることができるようになっています。今回のセミナーでは、NEURONプログラムの手順について、ちょっとしたコツをお話しする予定です。
 NEURONは単体の神経細胞モデルを作るだけでなく、それら神経細胞を結合してニューラルネットワークモデルを作ることもできます。NEURONを使って小規模なニューラルネットワークモデルを作る方法について、私の研究で用いている海馬の歯状回ニューラルネットワークモデルを例にとって紹介します。ここで紹介する海馬歯状回ニューラルネットワークモデルは、それぞれ2個ずつの顆粒細胞と抑制性細胞と苔状細胞からなります。貫通路線維を通じて、顆粒細胞へ周期的シナプス入力を加え、それに対する発火特性を調べました。顆粒細胞は抑制性細胞を通じて、苔状細胞からの抑制を受けているものとしました。このとき、苔状細胞へランダムシナプス入力を加えると、ランダムシナプス入力の分散の程度により、顆粒細胞の入力信号に対する周波数特性を低域通過型フィルタや帯域通過型フィルタに変えることができました。