メタンフェタミン( MAP )等の覚醒剤は、脳内において神経終末におけるカテコールア
ミンの放出促進と再取り込みの抑制により、強力な中枢作用を発現する。行動薬理学的検
討により、MAPを慢性的に投与し、休薬後再投与を行うと、単回投与時に比べ自発運動
量及び常同行動が増加する ( 逆耐性現象の発現 )。
一方、大脳基底核は運動機能にとって重要な役割を担っており、運動の発現や制御を司
る部位である。なかでも、線条体は運動を円滑に遂行するというような調節機能において、
大脳基底核の中で最も高次機能において重要な役割を果たすと考えられている。また、電
気生理学的検討から、線条体シナプスにおいては、長期抑圧現象 ( long-term
depression : LTD ) が発現することが報告されている(Calabresi, 1992)。
この逆耐性現象にはドパミン( DA )神経系の関与が従来から報告されている。しかしな
がら近年、DA神経系以外の神経系、特に興奮性アミノ酸の一つであるグルタミン酸を伝
達物質とするグルタミン酸( Glu )神経系がDA神経系と相互作用し、MAP逆耐性現象に関
与していることが報告されている。そこで本研究では、MAP逆耐性獲得ラットにおける
皮質─線条体グルタミン神経系の可塑的変化を電気生理学的に検討した。
Paired-pulse 法により、MAP連投群は対照群に対しプレシナプスの興奮性が上昇して
いることが明らかとなった。さらに、細胞内記録法により、MAP連投群は対照群に対し
ポストシナプスの膜抵抗の低下が認められた。この結果、MAP逆耐性獲得ラットは線条
体のsynaptic transmissionに異常が誘発されていることが明らかとなった。
次に、テタヌス刺激を用いて逆耐性の発現について検討した。その結果、対照群で誘発
されるLTDに対し、MAP投与群では弱いながらもLTPの発現が認められた。このLTPは
NMDA-R antagonistであるAP-VおよびD1-R antagonistであるSCH23390により抑制
された。さらに、Muscarine-R antagonistであるscopolamineにおいても同様に抑制さ
れた。以上の結果より、MAP逆耐性ラットの線条体ではLTPが発現すること、また、こ
のLTPにはNMDA受容体、D1受容体、Muscarine受容体が重要な役割を果たしているこ
とが明らかになった。