夏目季代久研究室の目標

当研究室のキーワードは、脳波・神経リズムである。

脳では、θ波、α波、γ波等の脳波、脳内リズムが観察される。これらの脳波は、脳にある神経細胞が活動して発生している。脳波や脳内リズムは、いつでも観察されるわけではなく脳がある状態になった時に観察される。ラットを用いた研究から、記憶学習をしている時には、脳内海馬よりθ波が出現している。この事より、θ波によって脳内は、非常に記憶学習しやすい状態になるのではないかと考え、海馬スライスを用いて仮説検証の研究を行った。その結果、確かに、θ波発生中は、海馬で観察される神経シナプスの可塑的な変化が起こりやすい事が示せた。神経シナプスの可塑的な変化は記憶学習過程の基礎過程であるので、上記考えが正しい事が示せた。当研究室では、このような脳内で観察される脳波やリズム現象に着目して、その情報処理における役割について明らかにする事を目的としている。

シナプス可塑性は、神経細胞内で生じる生化学反応である。細胞内生化学反応は、複雑なネットワークを形成しており、インタラクトームと呼ばれている。上記の知見は、神経細胞によって生じる脳波などの電気的な現象が、神経細胞内の生化学的な現象、インタラクトームと関係している事を示唆する結果である。従って、私たちは様々な神経リズムで、その関係を明らかにしていきたいと考えている。  実際には、私たちは脳内海馬のてんかん波、β波に着目し研究している。β波は、θ波よりも大きな周波数を持ち、あまり機能はわかっていない。しかし、抑制性神経の活動の違いでβ波からθ波に移行する知見が私たちの研究室で得られている。またβ波が記憶に関わるという知見もあり、今後θ波とβ波とで記憶処理における役割の違いを明らかにしたい。

しかし脳内には実際に、神経細胞だけでなく、グリア細胞も存在し、神経細胞と共に情報処理を行なっていると考えられている。またグリア細胞の1種のアストロサイトにも細胞内Ca2+濃度振動と言うリズム現象が見つかっている。脳内リズムが当研究室のテーマであるので、この細胞内Ca2+濃度振動を見逃さない手は無い。そこで、この細胞内Ca2+濃度振動の計算機モデルを作って研究している。 またヒトにおいても英語リズム学習時においてθ波が変化する事を明らかにした。この点に関する研究も行っている。 研究室を立ち上げてから5年が経ち、てんかん波と細胞内インタラクトームが関係する事が次第に分かってきた。この点に着目している研究している研究室は世界的に見ても、まだ当研究室のみである。これからの5年間で、さらに様々な神経リズムと細胞内インタラクトームとの関係を明らかにしていきたいと考えている。またヒトを含めた多く脳内リズムの研究を通して、記憶の処理、果ては自発性等に関しても考察していきたいと考えている。

具体的な研究テーマ

夏目季代久研究室では、研究室を3つの班に分けて研究を行っている。実験班、理論班、応用班である。実験班では、脳波や脳内リズムを生成する電気的な神経細胞ネットワークと各神経細胞内における代謝ネットワークとの相互作用に関して研究をしている。私は、これら2つの階層的なネットワークによって、脳内情報処理がなされていると考えている。またこれら2つのネットワークの関係を明らかにすれば、神経ネットワークより創出されると考えられている創造、意識等の問題も明らかになるのではないかと考えている。

理論班では、グルタミン酸刺激に対するアストロサイト細胞内Ca2+濃度振動モデルを作成し、アストロサイトから神経細胞に対して、どのような作用が考えられるか考察している。またシミュレータHIPPOSTATIONを開発している。

 応用班では、英語リズム学習時における脳波を測定し、英語リズム学習システムの開発、各種脳波を用いたブレインコンピュータインターフェース、脳波を用いたビデオゲーム開発、脳波を用いたロボット制御、インテリジェントカー制御の研究に携わっている。

  1. 実験班
    1. 海馬θ波に対する神経細胞内リン酸化酵素活性化の関与
    2. 海馬β波に対するグルタミン酸受容体及び神経細胞内リン酸化酵素活性化の関与
    3. 海馬β波に対するノルアドレナリン神経系の関与
    4. 海馬てんかん波中に観察されるシナプス可塑性とギャップ結合の役割
    5. 海馬てんかん波と海馬β波の相互作用について
  2. 理論班
    1. グリア細胞(アストロサイト)のグルタミン酸に対する反応に関する計算機モデル
    2. 神経電気現象及び細胞内インタラクトームのシミュレータHIPPOSTATIONの開発
  3. 応用班
    1. 英語リズム学習時の脳波変化を検出し英語リズム学習システムの開発
    2. 脳波を用いたe-ラーニングシステムの開発
    3. P300を利用したブレインコンピュータインターフェースの開発
    4. 脳波を用いた音楽嗜好性検出
    5. SSVEPを用いたブレインコンピュータインターフェースの開発
    6. 脳波を用いたビデオゲームの開発

夏目季代久研究室における研究・教育について

基本的に、テーマは、各人のテーマに応じて一人一つずつ与えます。実験班では、主に電気生理実験を行います。理論班は、主にコンピュータでプログラムを書いて、様々な現象をシミュレーションします。応用班では、人によって異なりますが、脳波検出のシステムを作ったり、脳波の検出プログラムを書いたり、また実際に、様々なタスクを与えて脳波を測定します。また、NIRS(島津製作所)等を用いて脳内血流量を測定する場合もあります。

このように聞くと、いろいろやらなくてはいけないから大変かな、と思ったかもしれません。しかし人間知能システム工学専攻の教育システムの中にイミグラント科目と言うものがあり、他分野から入学した学生さんにも、きめ細かい指導が行なわれています。また研究室内でも、M1と私とだけで行なうM1ゼミがあり1年間かけて基本的な教科書を輪講しています。せっかく人間知能システム工学専攻に入ったのだから、脳神経についてきちんと知って欲しいと思っています。神経について、今まで知らなかったと言う学生さんでも、研究室に入った学生さんは、大体1年経てば、皆きちんと脳神経について理解しています。また一生懸命実験して結果が出れば、出来るだけ国内外の学会等で発表して貰おうと思っています。

重要なのは、”やる気”です。もし研究室のHPを訪問して少しでも興味を持ってくれたら、ご連絡下さい。Welcome!!です。連絡は、こちらから。

卒業後の進路

卒業生の進路のページを見ても分かるように、様々な方向に進んでいます。基本的に、就職時期を含め、学生さんの意志を尊重しています。時には、優秀な学生さんが修士課程で就職しようとして、もったいないなあ、と思う時もあります。博士課程に行けば、もしかして違った人生があるかもしれないのに、と思ったりします。しかし学生さん自身の人生なので、自分で決定すれば良いのではないかと思っています。とはいえ、多くの学生さんが博士課程に来て欲しいと思っているのが本音ですが。卒業に向けての基本的な指導方針としては、研究室にいる間に、何か一つでもスキルアップして貰うよう指導しています。実験技術、プログラミング技術、何か一つでも良いから、入ってくる時よりスキルアップしたものを出る時には感じて欲しい、と思っています。そうでないと、ここにいる意味がありませんからね。

卒業生の進路はこちら