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初期視覚機能をモデル化したガボールフィルタLSI
参考文献

脳の初期視覚野(V1)のモデルとして,また強力な特徴抽出モデルとして 知られているガボールフィルタを高速で実行するLSIを開発しています。

ガボールウエーブレット変換による特徴抽出

  • ガボールフィルタはsin/cos関数をガウス関数で局在化したカーネルを用いる 空間フィルタで,画像の局所的な濃淡情報を取り出します。局所的な情報を 見るので,画像の照明変動の影響を受けにくいという利点があります。
    カーネルの形を固定して,それを伸び縮みさせて様々な周期のカーネルを作り だし,それに対応した空間周期の特徴抽出を行います。これをガボール・ウェー ブレット変換と呼びます。

    <ガボールウェーブレット変換により様々なパターンを抽出した例>

  • 顔画像に適用すると様々な方向と濃淡周期により豊富な特徴情報を抽出するこ とができるため,高精度な顔認識システムに採用されています。
    <顔画像のガボールウェーブレット変換の例>

  • それだけでなく,ガボールフィルタは人間の脳での初期視覚処理のモデルであ ることから,動き検出,立体視など様々な視覚機能のベースになる処理とみな すことができ,人に近い能力を持ったロボットビジョンの 実現に必須の機能であると考えられます。

    しかし,演算量が膨大になるため,ソフトウェアや通常のプロセッサではリア ルタイム処理が困難,または大きな電力を消費するという問題がありました。 そこで,我々は画素並列動作可能なアルゴリズムを考案し,それをLSI化することによ り,低電力でリアルタイム処理を可能にしようとしています。

画素並列動作可能なガボールフィルタアルゴリズムの考案

  • 従来より,2層の抵抗ネットワークでガボールフィルタリングを行うモデ ルとアルゴリズムが提案されていました(B. E. Shi, 1998,1999)。 このモデルの基本になっているのは,単純な抵抗ネットワークです。

    <従来の抵抗ネットワークモデル>

    ここでは入力画素値を各ノードに設置された電圧源(または電流源)で表し, 抵抗ネットワークの安定状態を使っていたため,ガボールフィルタカーネルの 窓関数は指数関数的になっていました(「ガボールフィルタ」ではなく,「ガ ボール型フィルタ」と呼ばれていました)。

  • そこで,入力画素値を各ノードに初期電荷として与え,拡散していく途中 経過を処理結果として取り出すモデルを考案しました。

    <新たに考案した抵抗ネットワークモデル>

    この回路は簡単な式変形で,第1種変形ベッセル関数で表現できる ことが分かります。これはほぼガウス関数とみなすことができます。

    <新たに考案した抵抗ネットワークモデルの解析>

    この原理を用いて,Shiの回路を変更すると,実現できるカーネルの窓関数は ガウス型になり,正確なガボールフィルタが実現できます。

    <考案モデルに基づくガボールフィルタの画素回路>

    私たちのモデルでは,電荷が拡散していくとノード電位がどんどん下がっ ていきます。そこで,ノードとグランドを接続している抵抗(G0)の符号を拡散中に 適宜入れ替えることで,減衰と増幅を繰り返し,所望の出力値が得られるよう にしました。

AD融合方式画素並列型ガボールフィルタLSIの設計・試作

  • 上記のモデルは抵抗ネットワークというアナログ回路を用いていますが, 電荷拡散の過渡状態を見なければいけないため,アナログ回路をそのまま作っ ても,制御が困難です。

  • そこで,キルヒホッフの法則を用いて抵抗ネットワークの各ノードの電流 式を求めました。

    <ガボールフィルタ回路に基づくノード電圧更新の計算式>

  • この式を各画素毎に計算する回路を,我々が「AD融合方式」と呼ぶパルス (PWM信号)を用いる方式で考案しました。

    <画素並列アーキテクチャ>

    <AD融合方式による画素回路>

    この回路では,各画素回路毎に用意されたキャパシタを用いたアナログメ モリに初期値(抵抗ネットワークモデルでの初期電荷量に相当)を設定し,キャ パシタ電圧をPWM 信号に変換した後,PWM信号で演算を行い,その結果をもと にキャパシタの電圧値を更新していきます。隣接結合の組み合わせをセレクタ で切り替えていくことにより,上記の式を実行していきます。

  • この回路を組み込んだLSIを設計し,VDECを通してローム(株)(0.35ミ クロン・プロセス)で試作しました。 9.8mm角のチップに64x64画素の回路を組み込んでいます。LSI内部はPWM信号で 計算しますが,入出力はデジタルです。電源電圧3.3Vで消費電力は約400mW, 一つのガボール変換を約1msで実行します。

    <ガボールフィルタLSIのピクセル回路レイアウトとチップ写真>

  • 試作したLSIの測定結果を示します。

    <試作LSIで得られたガボールフィルタのインパルス応答>

    <試作LSIで得られた様々な周期のガボール・インパルス応答>

ガボールフィルタシステムの構築

  • 試作LSIをFPGAで制御し,PCと組み合わせたシステムを構築しました。

    <ガボールフィルタシステムの構成図>

    <ガボールフィルタシステムの概観>

    <ガボールフィルタLSIボードの概観>

    ガボールフィルタシステムの出力例(PCディスプレイ・イメージ)
    縦・横・斜めのストライプパターンがそれぞれ別個に抽出されています。

  • 今後,このシステムを用いた様々な応用について研究していきます。

(最終更新日:2009/07/24)

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