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このCOEプログラムが新しい学問分野・研究領域として確立しようとしている「脳情報工学」とは、「脳を模倣した神経機能デバイスをつくり、チップとして実現すること」です。神経機能デバイスとしては、たとえば、各種感覚デバイス、記憶デバイス、情報統合デバイス、言語認識デバイス、運動制御デバイスなどがあります。しかし、脳情報工学は本来もっと広い学問分野・研究領域であり、そのように考える場合は、上記の神経機能デバイスが関与するすべての情報処理システムがその範疇に入ります。その意味では、COEプログラムで研究開発する神経機能デバイスは脳情報工学の基盤技術と言ってよいでしょう。
脳の記憶機能を例に取って考えてみましょう。脳を見ていると、脳における情報処理の基本的戦略は、脳のいろいろな部位で共通しています。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、平衡感覚などの感覚情報に基づいて、ニューロンとニューロンの間の結合の強さを変化させて学習し、その結果を長く保持することによって記憶しています。しかも、脳の記憶システムは、単に事象を記憶するだけではなく、運動制御、姿勢制御、空間認知、時間関係の認識、言語、発話のような、脳が最もすぐれた能力を発揮する機能と直接結びついています。さらに、それらの記憶を学習によって互いに有機的に結びつけることができ、その結果、機能と機能の間をも結びつけることができます。このような記憶システムの究極の機能は、思考し、決断する能力です。このように、脳の記憶システム一つをとってみても、コンピュータなどで使われている従来の記憶装置とは異なる、まったく新しい情報処理パラダイムであることが分かります。学習、記憶、機能発現のすべてが、特別なソフトウェア無しで、同じ記憶システムの上で同時進行的に行われているのです。
脳情報工学の基盤技術であるこれらの神経機能デバイスが、たとえばヒューマノイドボットに搭載されると、自己と環境あるいは自己と他との相互作用によって、学習し、環境に適応し、自己判断ができるなど、自律機能を発揮することになります。たとえば、周囲の状況を認識し、記憶にとどめ、何をすべきかを判断し、適切な運動制御ができれば、ロボット同士の共同作業のみならず、人間とのスムーズな共同作業も可能になるでしょう。また、介護ロボットとしての機能も発揮できると考えられます。
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